アスベスト法律の改正が工事に与える影響とは?

今では健康リスクを広く知られているアスベストですが、建材としては優れた性能を持つことから、かつては多くの建造物に使用されてきました。

現在はアスベスト関連の法律が改正されたことによって、作業前から作業後まで、厳しく規制されています。

この記事では、法改正された法律も含め、アスベスト関連の法律をわかりやすく解説していきます。

目次

アスベストが関わる工事とは?

建築物の工事は原則アスベストが関わっている

そもそも、アスベストが関わる工事とはどのような工事を指すのでしょうか?

2022年4月から、建築物の改修・解体工事については原則事前調査が必須となりました。

つまり改修・解体工事は基本的にアスベストが関わると言えるでしょう。

例外的にアスベストの事前調査自体が必要ないのは、以下のような作業の場合です。

  • 材料が木材、金属、石、ガラス等のみで構成されているような、石綿が明らかに含まれていないものであり、作業時に周囲の材料を損傷させるおそれがない作業
  • 手作業での釘打ちや釘抜き等、材料に極めて軽微な損傷しか及ぼさない作業
  • 既存の材料等の除去は行わず、新たな材料を取り付け、塗装する作業
  • 国交省により石綿が含有されていないことを確認されている工作物の解体・改修作業

参考:建築物等の解体等に係る石綿ばく露防止及び石綿飛散漏えい防止対策徹底マニュアル|環境省

更に詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。

【発注者の協力が必要】アスベスト関連工事前に関連する法律

では、アスベスト関連工事の前に関連する法律を、実際の工事の流れに沿ってご紹介します。

アスベスト事前調査

アスベスト事前調査の基準が、2022年~2023年に強化されたため、現在では建築物の工事は原則事前調査が必須となっています。

遵守すべき主なポイントは以下のとおりです。

  • 有資格者による事前調査の義務
  • 事前調査結果報告書の作成
  • 事前調査結果の報告義務

有資格者による事前調査の義務

事前調査は、以下の資格を持つ者が行うことが法律で義務付けられています。

  • 特定建築物石綿含有建材調査者
  • 一般建築物石綿含有建材調査者
  • 一戸建て等石綿含有建材調査者
  • 2023年9月30(日)までに日本アスベスト調査診断協会への登録済みであること

これらを怠ると、大気汚染防止法に基づき、30万円以下の罰金を科せられます。

事前調査結果報告書の作成

調査結果をもとに、報告書を作成します。

報告書の作成をする際は、石綿事前調査結果報告システムを原則使用します。

システムを利用することができない場合は、紙媒体での提出も認められています。

詳しく知りたい方は、次の記事を参考にしてみてください。

事前調査結果の報告義務

一定規模の工事の場合、事前調査結果を報告する義務があります。

事前調査結果の報告義務が発生するのは、次の条件のいずれかに当てはまる工事です。

  1. 建築物の解体作業がある工事で、作業対象の床面積の合計が80m^2以上
  2. 建築物の改装・補修作業がある工事で、対象の作業の請負金額の合計が100万円以上
  3. 工作物の解体・改装・補修作業がある工事で、対象の作業の請負金額の合計が100万円以上

※1 契約を分割した場合も、同一の工事としてみなします。

※2 請負代金の合計額は、材料費も含めた作業全体の請負代金のことで、事前調査の費用は含みませんが、消費税を含む額で計算します。また、請負契約が発生していない場合でも、請負人に施工させた場合の適正な請負代金相当額で判断します。

先程の石綿事前調査結果報告システムを利用して結果報告書を作成した場合、報告も同じシステム上で行うことができます。

作業計画の作成

2021年4月からすべてのアスベスト工事において、作業計画の作成が必要になりました。

作業計画は、以下の項目を記載する必要があります。

  1. 安全管理体制
  2. 作業方法・順序
  3. 粉じん発散防止・抑制措置
  4. 労働者の粉じん曝露防止措置
  5. 隔離、立入禁止措置
  6. その他

出典:石綿作業主任者テキスト第4版|国立国会図書館サーチ

また、作業計画に基づく作業状況等を、写真などにより記録し、3年間保存する必要があります。

工事に伴う届出義務

次に、工事の規模や対象に伴い、届出を地方自治体や労働基準監督署に提出する義務が発生します。

特定粉じん排出等作業届

レベル1または2のアスベスト建材が使用されている建築物等の工事に必要となる届出書です。

大気汚染防止法において、この届出義務者は「発注者」とされています。

アスベストのレベルについては、以下の記事を参考にしてください。

名称特定粉じん排出等作業届
根拠大気汚染防止法第18条の17
対象レベル1または2のアスベスト建材
期日アスベスト除去工事開始の14日前まで
届出先地方自治体
書式e-GOV|法令検索(外部のページに飛びます)

工事計画届

建設業と土石採取業に限り提出する必要がある届出になります。

こちらの計画届を提出した場合、作業届を提出する必要はありません。

石綿作業主任者テキスト(第四版)によると、提出書類は以下の通りです。

  • 建設工事計画届
  • 作業を行う場所の周囲の状況及び四隣との関係を示す図面
  • 建築物の概要を示す図面
  • 工事用の機会、設備等の配置を示す図面
  • 広報の概要を示す書面または図面
  • 工程表
名称工事計画届
根拠労働安全衛生法:第88条第4項
対象レベル1またはレベル2のアスベスト建材
期日アスベスト除去工事開始の14日前まで
届出先労働基準監督署
書式建設工事計画届(様式第21号)|徳島労働局

その他自治体ごとの届出

ここまで挙げた届出の他に、条例等により自治体指定の届出が必要となる場合があります。

例として、東京都で提出が必要な「石綿飛散防止方法等計画届出書」について見ていきます。

この届出は、以下のいずれかの場合に提出が必要となります。

  • 使用されている石綿含有吹付け材の面積が15㎡以上
  • 建築物の延べ面積または工作物の築造面積が500㎡以上
名称石綿飛散防止方法等計画届出書
根拠環境確保条例第124条
対象・使用されている石綿含有吹付け材の面積が15㎡以上
・建築物の延べ面積または工作物の築造面積が500㎡以上
期日アスベスト除去工事開始の14日前まで
提出先東京都内の地方自治体
書式石綿飛散防止方法等計画届出書(第35号様式)|東京都環境局

【元請業者だけではない?】アスベスト関連工事中に関連する法律

では、実際にアスベスト関連工事が始まってから、関連する法律にはどのようなものがあるのでしょうか?

元請業者だけが法律について考える必要があるように思われますが、実は発注者にも協力する義務が発生します。

具体的に法律で定められる義務について見ていきましょう。

事前調査結果・特定粉じん排出等作業に係る掲示

石綿障害予防規則(石綿則)・労働安全衛生法(安衛法)・大気汚染防止法(大防法)では、以下の標識を掲示することが義務付けられています。

  • 石綿除去取り扱い注意事項周知(石綿則第34条)
  • 石綿作業主任者の氏名・職務の表示(安衛法第18条)
  • 立入禁止(石綿除去作業中)の表示(石綿則第7, 15条)
  • 作業場内喫煙・飲食禁止の表示(石綿則第33条)
  • 事前調査の結果及び作業内容等の掲示(大防法第18条、大防法施行規則第16条、石綿則第3条)

また、大気汚染防止法では、「事前調査の結果」を

  • 接地している道路面ごとに、公衆の見やすいところに掲示すること
  • A3判以上の掲示板にすること

とも定められています。

石綿作業主任者の選任、特別教育

石綿含有建材が使用されている建築物等の解体等作業では、以下の項目が事業者に義務付けられています。

  • 石綿作業主任者を選任すること
  • 労働者に特別教育を実施すること
  • 石綿健康診断を受診されること

また、石綿作業主任者は後述するレベルによる建材の規制を実施する必要があります。

レベルによる建材の作業基準

アスベストは、その建材ごとにレベルが振り分けられており、レベルによって建材の取り扱いが異なります。この規制は、石綿作業主任者が実施します。

ここでは、その一例を取り上げます。

レベル1建材

  • 作業場所の隔離
  • 作業場内の負圧が適切に維持されていることを適時確認する

レベル2建材

  • 当該労働者以外の立入禁止の区域を設定し、立入禁止表示を行うとともに、各種掲示の実施

レベル3建材

  • 建材を除去する際は、切断や破砕等の粉じんが発生する方法を避けて原型のまま取り外すことを指揮および監視する
  • 不可能な場合は、建材を湿潤な状態で除去することを指揮および監視する

それぞれのレベルによる建材の規制は非常に複雑なため、具体的な内容は以下の記事を参考にしてください。

直接罰

法改正前は、作業基準に違反した場合、適合命令や作業の一時停止命令が出され、これらの命令に違反した場合6月以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられていました。

環境省が発表したパンフレット「大気汚染防止法が改正されました」によれば、従来の法律では短期間の工事の場合、命令を行う前に工事が終わってしまう、という課題があったとのことです。

これを解消するための法改正となります。

参考:大気汚染防止法が改正されました|環境省

大気汚染防止法が改正されたことで、違法なアスベストの除去作業をすると、命令等の手続きを経ることなく3月以下の懲役または30万以下の罰金を科すと定められています。

また、元請業者のみならず下請け業者も罰則の対象となります。

有資格者による作業完了後の取り残し確認

作業が完了した後、有資格者によるアスベストの取り残しの確認が必要となります。

除去作業終了後、隔離を解く前に、石綿等に関する知識を有するものがにより取り残しが無いことを目視確認する。

出典:石綿作業主任者テキスト第4版|国立国会図書館サーチ

【終わった後も気が抜けない?】アスベスト関連工事後に関連する法律

無事法令を遵守したうえで作業が終了したとしても、まだ気は抜けません。

アスベストに関連する法律では、作業終了後もいくつか規制が存在します。

ここでは、アスベスト工事が終了したあとの、法律による規制について解説していきます。

下請負人による特定粉じん排出等作業の記録の作成と保存

石綿則において、事業者は常時石綿含有建材を取り扱う労働者について1ヶ月ごとに以下の事項を記録する義務があります。

  • 労働者の氏名
  • 従事した作業の概要および期間
  • 石綿粉じんに著しく汚染される自体が生じたときの概要と応急処置の概要
  • 工事発注者
  • 元請業者
  • 作業場の名称

この記録は、労働者が作業に従事しなくなった日から40年間保存する必要があります。

解体等作業の実施状況の作成と保存

石綿則・大気汚染防止法において、石綿使用建築物等の解体等作業を行ったとき、事前に作成した作業計画に従って除去等の作業を行ったことを、写真やその他の実施状況を確認できる方法で記録を作成しなければなりません。

記録事項は次のとおりです。

石綿則による記録事項(参考)大防法による記録事項
石綿則第35条の2第一項
・作業計画に従って解体等作業を行ったことについて、写真などの実施状況を確認できる方法で記録
・当該作業に従事した労働者の氏名及び労働者ごとの当該作業に従事した期間
第18条の14、施行規則第16条の4第3号
・特定粉じん排出等作業の実施状況
石綿則第35条
・従事した作業の概要
・作業に従事した期間
・作業に係る事前調査の結果概要
・保護具等の使用状況(周辺作業従事者のみ)
第18条の23第2項、施行規則第16条の17
・特定工事の発注者の氏名、名称、住所、代表者の氏名
・特定公示の元請業者または自主施工者の現場責任者の氏名、連絡場所
・下請負人の氏名、名称、住所、代表者の氏名
・特定工事の場所
・特定粉じん排出等作業の種類および実施機関
・特定粉じん排出等作業の実施状況
参考:石綿作業主任者テキスト第4版|国立国会図書館サーチ

アスベスト事前調査結果の3年間保存

石綿則第35条において、アスベストの事前調査結果を3年間保存する必要があります。

(前項の表の左下に含まれます)

特定粉じん排出等作業の記録の作成・3年間保存

アスベストの粉じんが排出される工事(特定工事)の元請業者は、当該特定工事の特定粉じん排出等作業が完了したとき、作業の記録を作成し、特定工事が終了した日から3年間保存しなければなりません。

電子データでの保存も可能です。

根拠法令:大気汚染防止法第18条、大気汚染防止法施行規則第16条

発注者へ作業完了の報告・報告書面を3年間保存

元請け業者は、特定建築材料が使用されている部分の解体、改造または補修作業が終了した時点で、発注者に対して速やかに報告書を作成、報告しなければなりません。

これは電子データでも可能です。

この報告書に記載する事項は以下のとおりです。

  • 特定粉じん排出等作業の概要
  • 特定建築材料の除去等の完了の確認
  • 特定粉じん排出等作業の完了
  • 異常時の対応や、計画と異なる措置内容等の申し送り事項
引用:大気汚染防止法(アスベスト:特定粉じん排出等作業)|奈良県

根拠法令:大気汚染防止法第18条、大気汚染防止法施行規則第16条

法律を守らなかった場合のリスク

アスベスト関連工事の法律は項目が非常に多く、複雑な規制をされていることが分かりました。

しかし、法律を守らなかった場合は当然罰せられることになります。

どのようなリスクが存在するのかを見ていきましょう。

直接罰のリスク

先ほども直接罰については説明しましたが、違法なアスベストの除去作業を行うと、命令等の手続きなく3月以下の懲役または30万以下の罰金を課すことが定められました。

この罰則は下請け業者も対象となります。

法的責任のリスク

直接罰という大気汚染防止法に定められた罰が存在することとは別で、アスベストの危険性は一般に認知されているため、アスベストが飛散することは、基本的な安全性を欠いていると評価される可能性が高いです。

参考:平成22(受)1163裁判例結果詳細|裁判所 Courts in Japan

つまり、建設業者が適切なアスベスト対策をしなかったことで建築物の基本的な安全性を欠いていると判断された場合、発注者や居住者に対して損害賠償責任を追うことがあります。

さらに、購入した土地に広範囲にわたって石綿を含むスレート片が大量に発見されたため、土地の売主が約60億円もの賠償金を支払う判決が出たという例もあります。

参考; 平成28(ネ)3038裁判例結果詳細|裁判所 Courts in Japan

不適切なアスベストの処理を行うことで、直接罰のリスクだけではなく、賠償金や社会的制裁という大きなリスクを背負うことになるということを、改めて認識しておく必要があるでしょう。

まとめ

複雑かつ罰則のリスクも非常に高いアスベスト関連工事ですが、適切な専門業者を選べば、このようなリスクを心配することなく工事を執り行うことができます。

相場よりも非常に安い、工期が明らかに短いなど、他の業者と比較して際立って発注者に良いところがある業者を選ぶ際は、慎重になることをおすすめします。

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この記事の執筆者

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アスベストナビ編集部

アスベストナビ代表。アスベストについての総合情報をまとめたポータルサイト「アスベストナビ」を運営している。アスベストの健康被害から法制度の改正まで、幅広い知見を提供する。

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