石綿の健康被害が世間に広く知られた2005年のクボタショック。
この事件以降、国は本格的に石綿への規制強化を始めました。
2006年に石綿関連製品の製造、使用、譲渡などが全面的に禁止となり、製品製造時や、建物の建築時の石綿へのばく露はなくなりました。
しかし、これで石綿に接触する機会が完全に抑え込まれたわけではありません。
2006年より前に立てられた建物や工作物は現存していることから、それらの建物を改造・改築、または取壊しする作業が発生すれば、石綿を含む建材などが使われていることから、石綿にばく露してしまう可能性は高いといえます。
2021年以降、この部分にも規制が強化されていきます。
石綿に対する規制対象を拡大し、解体作業などの作業時に不適切な作業を行わないように防止する動きや、石綿が対象の建築物に使われていないか確認する事前調査の義務化、更にその事前調査の結果を都道府県や厚生労働省管轄の労働基準監督署に報告することを義務化したのです。
さらに厚生労働省は規制を強化し、2023年10月以降にこの事前調査を行う者に対し、資格要件を設けました。
経験だけでなく石綿に対しての知識を正しくもち、それを公に認められた資格保持者でなければ、事前調査として認められなくなったのです。
この記事では、石綿の調査義務の概要、対象の物件、調査方法や対策まで網羅的に解説します。
石綿とアスベストって何が違うの?
石綿とアスベストに違いはありません。
日本語読みかオランダ語読みの違いであり、物質的に同じものです。
天然鉱石の蛇紋石や角閃石が繊維状に変形した繊維状鉱物の総称をさします。
石綿は、「いしわた」もしくは「せきめん」と読みますが、法律用語では「いしわた」と呼びます。
英語での呼び方は、オランダ語読みとほとんど変わりのない、アスベストスです。
日本で使われていた石綿には、白石綿(クリソタイル)・青石綿(クロシドライト)・茶石綿(アモサイト)・アクチノライト・アンソフィライト・トレモライトがあり、この6種類が石綿として指定されています。
なお、ILO(国際労働機関)やアメリカの環境保護庁でも、日本同様に石綿をこの6種類に分類しています。
いつから石綿の事前調査は義務化されたのか?
石綿含有建材の有無の事前調査は2022年4月1日から義務化されました。
建築物などの解体や改修工事を行う前に、その工事に石綿含有建材が含まれていないかの事前調査を行い、その結果を石綿事前調査結果報告システムから報告しなければいけないという内容です。
さらに2023年10月1日からは、この事前調査は有資格者によって行わなければいけないことが義務化されました。
2022年4月1日〜 石綿の事前調査・報告の義務化
2022年4月1日より、建物などの解体や補修を行う場合には、石綿含有建材が対象の建物などに使われていないか調査することが義務化されました。
この根拠法は大気汚染防止法であり、法第十八条の十五における『解体等工事に係る調査及び説明等』の各号により、元請業者や自主施工者に対して、事前調査やその結果の報告を義務化することが示されています。
事前調査を行った結果については、書面での報告ではなく、電子システムの『石綿事前調査結果報告システム』を使って報告を行います。
このシステムは、都道府県と労働基準監督署の双方に同時報告ができるものです。
報告は電子システムということもあり、24時間オンラインで行えるようになっています。
石綿事前調査結果報告システムについては、以下の記事で詳しく解説していますので、参考にしてください。
2023年10月1日〜有資格者による石綿事前調査の義務化
石綿事前調査の運用については、2023年10月1日よりさらに強化され、要件を満たした者が事前調査を実施しなくてはいけなくなりました。
それまで事前調査を行う者に制限はなく、実施者が正確に調査を行えるだけの必要な知識を持っているかということは、第三者からみればわかりませんでした。
そのため、事前調査の信ぴょう性を高めるため、資格保持者でなければ実施することができない規制が生まれたのです。
この資格は、調査できる内容により3つに分かれています。
そのため、建物にあった資格保持者でなければ調査ができないという内容になっています。
石綿事前調査が認められた資格
石綿事前調査が認められた資格は「建築物石綿含有建材調査者」です。
この資格には、調査できる種類により3つに区分されています。
一般建築物石綿含有建材調査者は、全ての建築物に対して調査することが出来る資格です。
一戸建てに関する資格がありますが、一般には一戸建ても含まれています。
そのため、2024年3月の時点では、この資格を所持しておけば、すべての建築物の調査対応が可能だといえます。 ただし、今後の法改正の内容によっては、上位資格の特定建築物石綿含有建材調査者との間で、業務内容が明確に区分される可能性はあります。
一戸建て住宅、共同住宅の内部に限った調査を行うことができます。 共同住宅のベランダや廊下などの共有部分については、一戸建ての資格では調査が認められず、一般もしくは特定の資格が必要となります。
一戸建て住宅でも、その規模が大きければ、一般建築物や大規模建築物として対応しなくてはいけない場合があり、その場合も一般か特定の資格が必要になります。
全ての建築物に対して調査を行うことができる資格です。
一般建築物石綿含有建材調査者との違いは試験内容で、実地研修や面接試験が追加されています。 現状では、一般と特定での業務内容に差はありません。
なお、2023年9月までに日本アスベスト調査診断協会に登録され、引き続き登録されている者については、「同等以上の能力を有する者」として上記資格所持者と同じように調査を実施することができます。
そもそも石綿はいつから規制されたのか?
石綿の健康被害については、冒頭でも触れたように、2005年のクボタショックにより知れ渡るようになりました。
石綿含有の水道管を製造していたクボタの尼崎市にあった工場に勤務していた従業員が、石綿関連の疾患により肺がんや中皮腫などを発症し、多くの人が亡くなったことから、石綿が健康に大きく害を及ぼすことが表面化された事件でした。
ですが、2006年に全面禁止となる以前から、石綿は規制が始まっていました。
その歴史は、1960年にまでさかのぼります。
ここでは、石綿の規制の歴史について紹介します。
1975年 吹付け石綿の作業禁止
石綿に対する最初の本格的な規制は、1975年の労働安全衛生法施行令の改正、特定化学物質等障害予防規則(特化則)の改正によるものからでした。
石綿は、耐火性や断熱性、防音性などに優れただけでなく、酸やアルカリにも強い耐性を持っており、そのうえ価格も安い素材であったことから、それまで建築材料をはじめ、様々な場所で重宝されてきました。
戦後から1960年にかけ、粉じんによる健康被害が見られたことから、国は1960年に「じん肺法」を施行します。
ここで石綿も対象となり、じん肺検診について規定されました。
ここから15年後の1975年、特化則が大幅に改正されます。
ここで、石綿含有率が重量の5%を超える建材を用いた吹付け作業が禁止となりました。 ですが、この時点では、5%未満の吹付作業は許容されていました。
1995年 茶石綿、青石綿と重量1%以上の吹付け作業が規制
1995年になるとアモサイト(茶石綿)、クロシドライト(青石綿)の2種の石綿について、製造、輸入、譲渡、提供、使用が、労働安全衛生法施行令の改正により、全面禁止されました。
また、特化則の改正により、石綿の含有率が1%を超えるものの吹き付け作業が禁止されました。
この改正では、1%を越さなければ、クリソタイル(白石綿)を使った吹付け作業はまだ可能な状態でした。
2004年 重量1%以下の白石綿を除く石綿が規制
2004年の労働安全衛生法施行令の改正においては、石綿の代替が困難なものを除くすべての石綿製品の製造、輸入、譲渡、提供、使用が禁止されました。
2004年の段階でも、まだ、1%を越さないクリソタイル(白石綿)の使用は認められていました。
2006年 石綿の全面禁止
2006年の労働安全衛生法施行令の改正により、石綿の含有率が0.1%を超えるものの製造、輸入、譲渡、提供、使用が全面禁止となりました。
ただし、ジョイントシートガスケットやグランドパッキンなどで指定された用途・条件の製品については、2012年まで猶予措置がとられたことから、法令上は2012年をもって、石綿使用が全面禁止となったのです。
規制による違いをまとめた記事はこちらです。
石綿の報告義務が必要な場合について
石綿の事前調査では、調査後に報告書を作成し発注者に報告するとともに、その報告書を提示しておかなくてはいけません。
更に2022年4月1日より、石綿事前調査の結果を都道府県と労働基準監督署に報告することが義務付けられました。
報告義務の対象となる工事は次の4点となります。
- 解体部分の床面積の合計が80㎡以上の建築物の解体工事
- 請負金額が税込100万円以上の建築物の改修工事
- 請負金額が税込100万円以上の特定の工作物の解体または改修工事
- 総トン数が20トン以上の船舶(鋼製のものに限る)の解体又は改修工事
1. 解体部分の床面積の合計が80㎡以上の建築物の解体工事
解体工事のうち、解体部分の床面積の合計が80㎡以上の工事の場合、事前調査の報告が必要になります。
例えば、2階建て一般家屋において、1階の床面積が45㎡、2回の床面積が36㎡の場合、合計で81㎡あることから、報告対象となります。
また、平屋3棟の解体工事の場合、1棟あたり25㎡の棟が3棟であれば75㎡となり報告対象外となりますが、1棟あたり27㎡であれば81㎡となり、報告義務の対象となります。
2. 請負金額が税込100万円以上の建築物の改修工事
請負金額が税込100万円以上の建築物の改修工事の場合、事前調査結果の報告義務対象となります。
改修工事とは、既存の建築物に何かしらの変更を加える工事のうち、解体工事以外のものをいいます。
例えば、浴室のリフォームやキッチンをアイランドキッチンに変更するリフォームなど、資材と工事代金の合計で100万円を超える場合は事前調査結果を報告しなければいけません。 1階と2階にそれぞれ設置されているトイレを更新するリフォームを行った結果、資材2セットで税込み85万、工事代が10万で税込み95万といった場合は報告の対象外となります。
3. 請負金額が税込100万円以上の特定の工作物の解体または改修工事
配管設備や発電・変電・送電などの設備、トンネルの天井板や遮音壁などの環境大臣が定める特定工作物において、請負金額が税込み100万円以上の解体・改修工事の場合事前調査結果の報告対象となります。
4. 総トン数が20トン以上の船舶(鋼製のものに限る)の解体又は改修工事
2022年1月13日厚生労働省令第3号において、石綿障害予防規則の一部を改正する省令の一部が改正され、総トン数が20トン以上の船舶の解体工事又は改修工事が石綿事前調査の報告対象として追加されました。
石綿の事前調査・報告が例外的に不要な場合について
石綿の事前調査は、解体作業を始め改造や補修などの工事を含め、全ての工事において義務となっていますが、一部の例外条件に当てはまれば、事前調査を免除することができます。
石綿の事前調査が不要になる例外条件とは、石綿が素材として含まれていないことや対象工事において石綿含有の建材への損傷がないなど、石綿が飛散するリスクがない場合となります。
具体的には次のような場合です。
- 工事対象の建材が石綿を明らかに含まない素材のみの場合
- 建材にほとんど損傷を与えず石綿の飛散リスクがない場合
- 塗装や材料の取り付けのみを行う場合
- 平成18年(2006年)9月1日以降に着工された建築物などの場合
1. 工事対象の建材が石綿を明らかに含まない素材のみの場合
工事対象の建材が石綿以外の素材で作られたものの場合、素材に石綿が含まれていないことから事前調査は不要となります。
例えば木材や石だけの建材の除去作業や障子を除去し襖(ふすま)に交換するような作業の場合、除去する対象物に石綿が含まれていないことから、事前調査は必要ないのです。
2. 建材にほとんど損傷を与えず石綿の飛散リスクがない場合
工事対象の建材をほとんど損傷させずに作業ができる工事の場合、事前調査は不要となります。
釘により固定されていた建材の釘を抜き撤去する作業や、別の建材などを釘を打って固定するだけの作業の場合、既存の建材を損傷させずに作業することができます。
これらの作業の場合、石綿の飛散するリスクはないことから、事前調査は必要ないのです。
3. 塗装や材料の取り付けのみを行う場合
対象建築物の塗装の上に、新たに塗装だけ行う工事の場合、事前調査は不要です。
上塗りするだけですので、塗装されている外壁などの既存建材を損傷させることがなく、建材自体の取り外しや外取り除く必要がないからです。
そのため、石綿を飛散させるリスクがないことから、事前調査は不要なのです。
4. 平成18年(2006年)9月1日以降に着工された建築物などの場合
平成18年9月1日以降に着工した建築物の場合、その着工日を図面から確認できるのであれば、書面調査をもって事前調査結果の報告書を作成し、報告することが可能です。
先に紹介した3つのケースとは違い、着工日を確認するために書面による調査が発生することから、現場による目視での調査をする必要がないだけで、このケースの場合は事前調査・報告そのものは必要です。
なお、2008年2月6日の労働基準局安全衛生部化学物質対策課長より、調査適用範囲の石綿は、3種類から6種類全てを対象とする旨の通達が出されました。
これにより、2008年2月6日までに行われていた石綿の調査結果において石綿なしとなっていたものについては、分析対象外となっていた石綿について再度調査が必要です。
【よくある間違い】報告義務がなくならない場合も!?
建築物等の解体・改造・補修工事で事前調査が不要になるケースは、全体からみると例外的だと解説しました。
しかし、それらのケースの中でも例外に当たらず事前調査・報告が必要になるケースもあります。
- 例1
-
建物の改修工事で素材に明らかに石綿が含まれていない資材を除去する工事であれば、事前調査が免除となりますが、それらを除去するにあたり壁など周囲の素材を壊さないと除去できない可能性がある工事については、例外とならずに事前調査と報告は必要になります。
- 例2
-
建材にほとんど損傷を与えず石綿の飛散リスクがない場合も事前調査は求められませんが、電動工具で建材に穴をあける場合には例外は適用されず、事前調査と報告の対象になります。
- 例3
-
塗装や材料の取り付けのみを行う場合でも、既存の建材を損傷し、石綿を飛散させるリスクはないので、事前調査が不要でした。
しかし、塗装を行う前に既存の塗装を剥がす工程があったり、塗装を行うために外壁面にアンカーを打ったりするなど、少しでも既存の資材を損傷させる可能性がある場合には、例外に当てはまらず、事前調査と報告の対象となります。
石綿事前調査における罰則について
石綿事前調査の報告を怠った場合、30万円以下の罰金が科される規定となっています。
報告の義務については、大気汚染防止法にて規定されており、それに基づき罰金額が規定されているのです。
なお、石綿除去などの措置義務に違反した場合には、3ヶ月以下の懲役、または30万円以下の罰金が科される規定になっています。
石綿事前調査の流れについて
建築物や環境大臣が定める特定工作物の解体や改修工事を行う前には、対象の建築物などに、石綿が含まれている建材などがないかを確認する事前調査を行います。
事前調査は、図面や書面を確認して行う書面調査、現地で実際に見て確認を行う目視調査の両方を行わなければいけません。
事前調査の手順は次のとおりです。
依頼を受けた建築物の設計図書から、その建物に石綿を含む可能性のある建材がないか、目視確認前に確認し、情報整理を行う作業が書面調査です。
発注者などの関係者に聞き取りすることも重要で、建物が使われ出して以降の改修や補修などがないかなどの変化点は、図面だけでは確認することが困難だからです。
目視調査は、書面や聞き取りで得られた情報の結果をもとに行うことから、現地で調査をスムーズに行うためにも、情報の整理は重要になります。
書面は建物が古くなれば揃っていない場合や紛失している場合もありますので、その場合には書面調査なしで目視調査を行うことになります。
古い図面などであれば、手書きとなっていることから、建材名も略されていたり、正式な名前になっていないケースもありますので、注意が必要です。
書面調査では、必ずしも現状の該当建築物の状態が把握できるものではありません。
なぜなら、建築段階で仕様を満たすため、現場判断で設計図書と違う施工を行っている場合があるからです。
また、建築物を利用している中で改修が行われていると、当初の設計図書では確認できない建材が追加されていることもあります。
そのため、書面調査はあくまで下調べの調査と位置付けしておかなければいけません。
現場では、外観の観察や図面や書類などとの違いがないか確認します。
内装のほか、見えない内側部分など、建材の使用箇所に漏れがないかを確認しなくてはいけません。
目視調査の結果から、最終的に建材に石綿が含まれているものを判断していきます。
それらの判断が完了すれば、調査の記録をもとに報告書を作成し、発注者に書面で報告します。
顕微鏡やX線解析を駆使し、アスベストが含まれるのか、アスベストの含有量はどのくらいなのかを調査します。
先に解説した事前調査の結果についての都道府県及び労働基準監督署への報告も電子報告システムから報告します。
まとめ
石綿の健康被害により、石綿は規制が進み、現在では使用できなくなりました。
そして、これまでに使われていた石綿製品によって健康被害が生じないように、石綿が含まれている建材に対しての規制も2021年以降も対策が強化され続けています。
既存の建物などによる石綿健康被害を防ぐ目的で、石綿事前調査が義務化され、報告も義務化されました。
さらには2023年10月以降の事前調査には、建築物石綿含有建材調査者や2023年9月までに日本アスベスト調査診断協会に登録され、引き続き登録されている者といった有資格者でなければ調査の実施ができない規制もスタートしています。
この事前調査の結果報告を怠ると、最大30万円の罰金が科せられる罰則もあります。
今回紹介した改修工事においても、自主施工の場合でも対象になります。
そのことから、事前調査が必要になるのか、また報告も必要なのかわからないといった場合、専門家に相談するのが確実です。
自身で事前調査を行う資格を持たない場合、事前調査することができませんので、現状に応じて専門業者に相談するといいでしょう。 専門業者に依頼すれば確実に対応してもうらことができますので、適切な資格を持った専門知識を持った専門家に相談するようにしましょう。
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