アスベストが使用された建物や製品を解体する際には、アスベストの飛散を防止する特別な措置が必要です。
アスベスト解体工事について知りたいことがある、どんなリスクがあるのかを把握したい、という方も多いはずです。
本記事では、アスベスト解体に関する基本的な知識をすべて解説します。アスベスト解体工事について知りたい方は、ぜひ最後までお読みください。
アスベストについて知ろう
アスベストは、耐久性や断熱性、耐火性に優れた物質として、さまざまな建築物や製品に使用されてきました。
しかし、アスベストは吸入すると発がん性などの健康被害を引き起こす恐れがあるため、現在では使用が禁止されています。
さらに、解体の際にも大気中にアスベストが飛散するリスクがあることから、アスベストが使用された建物や製品を解体する際には、様々な規制が敷かれています。
アスベストの基礎知識
それでは、アスベストについて詳しく見ていきましょう。
基礎知識をまとめました。
- アスベストとは:
- アスベストは繊維状の鉱物で、天然に産出されます。
- 使用期間:
- 約1956年から1975年まで盛んに使用。2006年に全面禁止。
- 健康被害:
- 取り扱う労働者や近隣住民に健康被害が報告されました。
- 法律改正:
- 2006年、労働安全衛生法施行令・石綿障害予防規則が改正。
- アスベストの使用が実質的に禁止されました。
- 建築物とアスベスト:
- 2006年以前の建築物にはアスベストが含まれている可能性があります。
- 解体時にはアスベストの除去が必要な場合があります。
アスベストの種類
アスベストの種類は、大きく「蛇紋石系アスベスト」と「角閃石系アスベスト」の2種類に分けられます。
- 蛇紋石系アスベスト
-
- クリソタイル
- 角閃石系アスベスト
-
- アモサイト
- クロシドライト
- トレモライト
- アクチノライト
- アンソフィライト
現在アスベストは法令上、建材の種類で分類されています。
除去の際にアスベストが飛散するリスクによってレベル分けされており、除去の際の対応もレベルによって変わります。
アスベストの使用例
アスベストは、主に以下の建築物や製品に使用されてきました。
- 建物の屋根や外壁、内装
- 工場の設備
- 船舶
- 自動車
- 家電製品
アスベストの危険性
アスベストは、吸入すると発がん性などの健康被害を引き起こす恐れがあります。アスベストによる健康被害としては、以下のようなものが挙げられます。
- 肺がん
- 中皮腫
- 肺線維症
アスベストの健康被害は、アスベストを吸入してから長い年月を経てから発症することもあります。
まずはアスベストについて詳しく知りたい、という方はこちらの記事を参考にしてください。
アスベスト解体工事の費用
ここまでアスベストの基本情報を見てきました。
アスベストの解体について最も気になるのは、やはりその費用ではないでしょうか?
具体的な費用は工事によって様々ですが、大まかな費用についてご紹介します。
アスベスト解体費用の目安
アスベストの解体費用については、国土交通省からデータが発表されています。
2007年の工事をもとにしたデータのため、あくまで参考程度に留めると良いでしょう。
実際の除去費用は部屋の形状、天井高さ、固定機器の有無など、施工条件などによって大きく変動します。
アスベスト処理面積 | 除去費用 |
---|---|
300㎡以下 | 2.0万円/㎡ ~ 8.5万円/㎡ |
300㎡ ~ 1000㎡ | 1.5万円/㎡ ~ 4.5万円/㎡ |
1000㎡以上 | 1.0万円/㎡ ~ 3.0万円/㎡ |
アスベスト解体の具体的なシチュエーション
ケース1:一戸建て住宅
工事対象面積:100㎡
除去費用見積もり:約800万円
ケース2:鉄筋造6階建てアパート
工事対象面積:600㎡
除去費用見積もり:約1800万円
アスベスト解体工事の補助金制度
アスベスト建材を含む建築物の解体には、通常の解体工事より費用がかかります。
そうなると、補助金などを利用して費用負担を抑えたいと思う方も多いはずです。
では、具体的にどのような補助金があるのかを一緒に見ていきましょう。
国や自治体の補助金制度
アスベスト解体工事については、国土交通省が補助制度を創設しており、補助金制度がある地方公共団体において活用することができます。
補助制度の有無は地方公共団体によりますので、工事の対象となる地方公共団体に問い合わせ・確認をすることをおすすめします。
アスベスト解体の補助金の対象となる条件
補助対象となる条件は、地方公共団体によって異なりますが、国土交通省が定める条件は以下のとおりです。
- 対象建築物
-
吹付けアスベスト・アスベスト含有吹付けロックウールが施工されている住宅・建築物
- 対象とする費用内容
-
対象建築物の吹付けアスベスト等の除去、封じ込め、囲い込みに要する費用
- 国の補助率
-
地方公共団体の補助額の1/2(全体の1/3)
具体的に、新宿区の令和5年度吹付けアスベスト対策の助成申請を例に見ていきましょう。(令和5年度吹付けアスベスト対策の助成申請はすでに終了しています。)
新宿区のアスベストの助成金では、含有調査と除去等工事の両方が対象となっています。
今回は除去等工事についてまとめます。
- 対象者:区内に対象建物を所有する個人・中小企業者・分譲マンション等の管理組合の代表等
- 対象建物:アスベスト含有調査で吹付アスベストがあることを確認済みの建物
- 助成金額:除去等の工事費の2/3相当(消費税相当額を除く)
- 助成上限:一戸建て50万円/棟、分譲マンション・その他300万円/棟
このように、かなりの助成が受けられることがわかります。
対象となる建物が地方公共団体による助成を受けられる場合は、積極的に活用することをおすすめします。
補助金の申請方法
地方公共団体によって違いはありますが、大まかに以下のような流れで申請・助成することが多いです。
- 事前相談:助成制度を利用する地方公共団体に工事前に相談します。
- 見積もり後申請:定められた様式で申請書を作成し、提出します。
- 助成金交付の採択通知:採択されたかどうかが通知されます。この時点では助成金は交付されません。
- 着手届けの提出:契約を締結し、工事に着手した届出を提出します
- 除去・解体工事
- 完了報告書の提出:調査・工事終了後、完了報告書を提出します。
- 助成金額の通知:助成金額が確定したら、地方公共団体から通知があります。
- 交付請求書の提出:助成金交付請求書を提出します。
- 助成金の交付
アスベスト解体工事の流れ
ここまで、主にアスベスト解体工事の費用について見てきました。
通常の解体工事よりも費用がかかってしまうアスベスト解体工事だからこそ、助成金などを利用して費用負担を抑えたいものです。
では、実際の解体工事はどのように進むのでしょうか?
アスベスト解体工事は、大きく分けると以下の6つに分けることができます。
事前調査
アスベストを含有している可能性がある建物は、解体工事の前に事前調査が必要です。
近年の法改正により、有資格者による事前調査が義務化されました。
そのため、資格者を有する専門の業者に依頼することが一般的です。
事前調査を行った業者は、書面でアスベスト事前調査の結果を発注者に報告することが義務付けられています。
各種届出
調査の結果アスベストが含まれることがわかった場合、除去・解体等工事を行うに当たり、届出が必要となります。
必要な届出は、先述したアスベスト建材のレベルごとに定められています。
届出とは別に、この段階で注意するべきは、「発注者は施工者に対して、作業基準を遵守できないおそれのある条件をつけないように配慮しなければならない」ということです。
これは大気汚染防止法によって定められている項目で、主に以下の条件が対象となります。
- 施工方法
- 工期
- 費用
工事を急ぐ必要があるからといって、無理やり工期を短くしたりすることは難しいでしょう。
アスベストを含む建物の解体や、アスベストの除去をする必要がある場合は、お早めの準備をおすすめします。
着工準備
届出が完了したら、アスベストの工事を行うにあたって、工事を周知することが必要となります。
事前調査の結果は、公衆に見やすいように掲示しなければならないと規定されています。
加えて、事前調査の結果を下請け業者等に説明し、保存する必要があります。
アスベスト除去作業
準備が完了したら、建物の解体時にアスベストが飛散しないよう、除去工事に取り掛かります。
アスベストが含有されている場所を密封養生・隔離します。さらに、取り除く際に粉じんが飛散することを防ぐため、人体に害のない飛散防止剤を散布します。
アスベストが周囲に飛散することを防ぐため、万全の体制を整え、安全に対象の建材を取り除きます。
アスベストを取り除くことができたら、建築物を解体します。
その後もホコリが舞い上がらないよう、水を散布しながら解体を進めます。
アスベスト処分
除去できたアスベストは梱包可能なサイズまで粉砕・切断し、運び出します。廃棄の際は「特別管理産業廃棄物もしくは産業廃棄物」として取り扱い、粉じんが飛散しないように廃棄します。
工事終了後の手続き
工事終了後、事前調査結果や作業計画書、施工時の記録などを報告書としてまとめ、対象の自治体へ工事完了を報告します。まとめた報告書は、3年間の保存が義務付けられています。
アスベスト解体に関する法令・規制について
アスベスト解体に関して、通常の解体工事と異なり、どのような手順で進められているのかを見てきました。
アスベスト解体が通常の解体工事よりも時間・費用がかかることが多いのは、安全のために各種法令や規制が定められているためです。
具体的にはどのような法令・規制が定められているのかについて、見ていきましょう。
法令基準と遵守すべき規定
アスベスト関連の法令は、
- 大気汚染防止法
- 労働安全衛生法
- 石綿障害予防規則
- 建築基準法
- 建設工事に係る資材の再資源化等に関する法則
が挙げられます。
以下、それぞれの法令が定める項目の一覧です。
- 大気汚染防止法
-
- 有資格者による事前調査
- 発注者による施工業者への配慮
- 事前調査結果の報告
- 特定粉じん排出等作業の届出
- 元請業者による、発注者への作業完了報告書の提出
- 労働安全衛生法
-
- アスベスト除去工事の計画の届出
- 作業主任者による現場指揮の義務化
- 石綿障害予防規則
-
- 事前調査の実施と掲示の義務化
- 作業計画の作成・周知・届出の義務化
- 発注者による施工業者への配慮
- 建築基準法
-
- 石綿含有建材の使用禁止
- 建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律
-
- 資材の再資源化の法律
近年、アスベストに関して様々な法改正が行われているため、関連法律の数は増えています。
施工業者などの専門業者でない限りすべてを網羅しておくことは難しいですが、大まかにでも把握しておくことは大切と言えるでしょう。
アスベスト解体の資格や許可の取得について
アスベストの除去作業は、その危険性の高さから、有資格者にのみ取り扱いを許されています。ここでは、アスベスト解体作業で活躍する資格について見ていきます。
- 石綿作業従事者
-
除去作業・運搬作業などアスベスト関連の作業に従事する際に、必ず必要となる資格です。
- 石綿作業主任者
-
アスベスト除去に関わる作業の計画立案、現場での指揮監督を行うことが出来る資格です。
現場に必ず一人の石綿作業主任者を置く必要があるため、重要な資格だと言えるでしょう。
- 石綿含有建材調査者
-
解体工事を始める前の事前調査の際には、有資格者による調査が必須となります。その調査を行うことが出来るのが、石綿含有建材調査者です。
法改正により事前調査が必須となった今、需要の広がる資格だと言えます。
アスベスト解体工事のトラブル
アスベスト解体工事では、法令などで規制が数多く存在し、それらを遵守して作業を行う必要があることを見てきました。
では、このような規制のあるアスベスト解体では、どのようなトラブルのリスクがあるのでしょうか?
アスベスト解体業者が法規制を遵守しない
アスベストは特別管理産業廃棄物または産業廃棄物であり、環境汚染などにつながることから、その取扱いには厳しい罰則が設けられています。
相場よりも安い金額で調査・工事を受注する業者は、それだけ本来必要な工数を省いている可能性があります。
この記事でも見てきた通り、アスベストの廃棄には特別な処理を行う必要があるのです。
それを対応せず廃棄することは不法行為であり、発注者もその責任を問われる可能性があります。
作業基準を守らない事による工期の遅れ
法規制を遵守しないことにより、起こる可能性があることの一つは、工期の遅れです。
近年の王改正により、違法なアスベストの除去作業をした場合は、勧告・命令等の手続きを経ることなく、直接罰を課すことが出来る様になりました。
これにより、工期が大幅に遅れるなどのリスクがあります。
アスベストの不適切な処理による訴訟リスク
更に問題となりやすいのは、適切なアスベスト処理をしていない土地や建築物を、売却したケースです。
アスベスト含有の事実を知りながら説明や告知をせずに売買を行った場合、損害賠償を請求されることもあるでしょう。
または調査を行わなかったために、本来発見できたアスベストの存在を知らずに売買を行った場合にも同様のリスクがあります。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
アスベスト解体工事は、危険性の高いアスベストを取り扱うことから、通常の解体工事より工数も費用も大きくなってしまうことが多いです。
その分、しっかりと業者を選び、リスクを最小限に抑えて工事を行いたいものです。
アスベスト解体工事を予定している方の参考となれば幸いです。
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